奈良市の市街地から南東約1.5kmに位置する紀寺団地は、9つの住棟に252世帯が暮らす集合住宅である。
奈良は、平城京跡･春日大社･東大寺･春日山原生林など、多くの世界遺産のほか、春日山麓を源に流れる能登川や、夏の風物詩である高円山の大文字など、歴史･自然･文化に恵まれた、古都の風土が息づくまちである。

本業務では、これまでの標準化された団地環境の整備手法を見直し、歴史･自然･文化に恵まれた奈良の個性を尊重するスタンスをとった。前述のような、奈良の風土を意識して、周辺に展開する山並みや、田園風景などに積極的に働きかけ、奈良での暮らしを実感できる風景の創造を心がけた。また、計画地を含む周辺の歴史を長年見つめてきた樹木を、新たな風景に生かすことでこの地の心象風景としての継承を試みた。
デザイン表現では、東大寺二月堂の意匠を受け継ぐことや、万葉植物による植栽計画など、奈良らしさを感じさせるものを大切にした。周辺地域の開発は、今後も進むものと思われる。紀寺団地が、住宅環境デザインの先例として、奈良に暮らすことの価値を高める取り組みの一助となることを期待したい。

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